絵とか雑記です。ほとんどフリピノです。
「これでいいかなピノクル」
聞き慣れた声で自身の名を呼ばれ頭の中に並べていた公式の数字がふいに脳裏から消える。
ピノクルは手に支えた教科書から目を離し、すぐさま名前を読んだ相手の手元に目を向けた。
「あ、えっと…うん、大丈夫、正しい解が出てる」
指先で相手のノートに並ぶ文字をたどりながら視線をノートから相手の顔にそのまま移す。
「ピノクルのお陰で何とかここまでは分かるようになったよ…ありがとう」
一つ安堵の息をつき、自身に微笑みながら礼を言う相手の様子にピノクルも思わず笑顔になる。
「ここまで分かれば、あとは簡単な応用だけだよフリーセル」
ピノクルとフリーセルがこうして学園の授業時間外に予習と復習をかねた「勉強会」
を開くようになって2週間が経とうとしていた。
「勉強会」といってもメンバーは二人のみだ。
数ヶ月前まで休学をしていたピノクルは当然のようにその期間の授業の遅れがある。
復学したからにはすぐさま遅れを取り戻し授業に追いつく必要がある、とピノクルは
あせりと共に休学前よりもことさら真剣に机に向かった。
それは当然同じ期間休学していた幼馴染も同じであろうとピノクルは信じて疑うことはなく
一人黙々と自身の部屋で勉学に勤しんでいた。
ピノクルがその考えを改めたのはそのひと月後の模試を兼ねた小テストの結果を
学院の廊下で眺めていた時であった。
自身の評価を確認すると、休学前の成績とはいかないがそれでも追試の対象などには幸い無縁の評価だ。
安堵し、ふと幼馴染のフリーセルの評価に目を配った。
彼も元々自分とそう変わらない成績であった。
しかし休学中、ピノクルがその期間得られなかった物を彼は会得していた。
-オルペウスリング
それは学院で得る知識や学習能力とは比べ物にならない、根本的な脳の「能力」そのものを増幅する装置だ。
そのオルペウスリングを模したレプリカ。
それをフリーセルは自らの力で「本物」に変えてしまうという恐らくそのレプリカを作った者ですら
信じられないような事態を引き起こしていた。
しかしその能力の代償は大きく、結果的にフリーセルはそのオルペウスリングを自ら手放した。
オルペウスリングが無ければ、一般的に脳の能力の開放は行われない。
しかし、一度リングにより覚醒したフリーセルであれば、リングが無くとも脳の能力は以前より強化が行われたのではないか…
そうであれば、学院のこの試験にも結果が簡単に現れているかもしれない。
オルペウスリングというイメージへの不安、そして今なお心に残る幼馴染に対する期待感。
緊張と共にフリーセルの名前を探すピノクルであったが、彼の名前を見つけると同時にその緊張が
一気に弛緩するのを感じずにはいられなかった。
「…C…マイナス?!」
ピノクル自身は「フリーセルは成績が上がっている」とほぼ確定した心積もりであったのだ。
しかし、まったく予想は外れていた。
「フリーセル…追試だ…」
学院校舎から寮までの見知った道を足早に進み、そのまま自身の部屋ではなく幼馴染の部屋の前に立ち、一呼吸置く。
音が響く位置をねらってドアをノックをした。
「フリーセル、いる?」
「…ピノクル?」
ガチャリとノブの回る音をたて、すぐにドアが開いた。
ピノクルの少し下から怪訝な表情で視線を合わせるフリーセルに焦りなどは感じられず
それが一層ピノクルを困惑させた。
「ねえ、フリーセル…この前の模試の成績表確認した?」
「ああ、さっき帰る前に見てきたよ」
「あの…もしかして体調くずしてた?あの成績…」
「体調はまったく問題なかったよ」
「じゃ、じゃあ一体どうしてあんな…」
「問題が分からなかった、只それだけの事だよ」
答えるフリーセルは相変わらず焦る様子はなく、ただ自嘲気味に笑うだけだった。
「でも、以前は追試なんて受けたことなかったじゃないか」
「…実は授業に全くついていけてないんだ」
「え?」
「まあ休学していた期間があったからあたりまえだけど」
ピノクルは先ほどからのフリーセルとの会話の違和感に一瞬浮かんだがピノクルにとっては信じられない予想を思い切って言葉に出した。
「フリーセル…休学期間の授業内容の復習とかしてる?」
まさかそんな訳が無いと、言葉にしたものの直ぐにこの考えを否定する返事が来ると思っていたピノクルに一言フリーセルが答えた。
「してないけど?」
クロスフィールド学院は国内でも有数の名門校だ。
「天才たちが集まる」そんな評価が国外までにも浸透している学院。
だが、その学院に通う生徒たち全てがいわゆる天才というわけではない。
一定の成績を収めれば、誰しもこの学院を学び舎とする事が可能なのだ。
ただ、その「一定の成績」は国内の平均値のはるか上ではあるが。
ピノクルは幼いころから当たり前に学業に勤しんできた。
名門クロスフィールド学院に通うのはそれほど難しいという感覚ではなかった。
ただ、学院に入学するといわゆる天才とうたわれる数々の同年代の子供たちを目の当たりにし
あくまで自分は「秀才」なのだと否応にも何度も自覚してきた。
そんな中、幼馴染であるフリーセルも自分と同じ部類の人間である事をピノクルは知っていた。
「天才」ではなく「秀才」であると。
クロスフィールド学院以外であれば「秀才」は充分に高い能力とみなされ受け入れられる。
しかし、この学院では「秀才」は凡人と同列である。
何故なら、天才でないのならば努力して高い成績を残す「秀才」以外にこの学院に受け入れられる事はないのだ。
高いレベルの授業にいつでも対応できるよう、日々の授業を聴き、寮に戻れば復習をして備える。
ピノクルにとってはそんな事は幼い頃からの日課なので当たり前のようにこなしてきていた。
フリーセルもそれは同様であったはずだ。
そのフリーセルが「授業についていけていない」という。
秀才が成績を残せない。
それはすなわち秀才という凡人がこの学院で学ぶ唯一の権利をゆるがす出来事だ。
さらにフリーセルにはこの学院の学費を納める保護者がいない。
奨学金によってその替わりとしている。
この学院で奨学金を受ける為には、一定の成績評価をされなければ認定されない。
追試など本来もっともさけなければならないイベントである筈であった。
そんな事を脳裏に描き、ピノクルの困惑は深まる一方だった。
このような形で成績が下がるまずさをフリーセルが知らない訳が無い。
成績が下がった故の結果、たどり着く結末をあえてピノクルは口に出した。
「フリーセル…学院やめようと思ってる?」
「…それでも構わないとは思っているよ」
鼓動が一瞬高くなり、周りの空気が冷たくなるような感覚に襲われた。
幼い頃から共に過ごした大切な相手。
いつしかその感情は強くなり、ひとつの嘘と嫉妬から二人の間にどうしようもできない溝を作り
距離を広げてしまう事となった。
しかし大きな出来事を経てまた今はこうして一緒にいられる。
これからは一緒にこの学院で…
その矢先のフリーセルのこの発言にピノクルは思わず言葉を詰まらせた。
「…どうして?」
必死に言葉を吐き出したその質問にフリーセルは一瞬戸惑いをみせるが
答えようとはしなかった。
その様子にピノクルは休学中の出来事を脳裏によみがえらせる。
フリーセルがこうして復学している事自体、奇跡なのかもしれない。
それくらい彼にはつらい出来事が、この期間に起きていた。
ピノクルにもいくつもつらい事があった。
しかし、この期間が与えたものはつらい物だけではない。
それはフリーセルにも同様ではなかったか?
長い沈黙の後、ピノクルが言葉を伝えた。
「僕は、君にこの学院をやめて欲しくない…フリーセルと一緒にいたいんだ」
休学中のつらい出来事の後、フリーセルを苦しめる一つの原因を作ったであろう自分をフリーセルは受け入れてくれた。
その状況がピノクルに素直に思いを伝える勇気を与えた。
それは、休学前の自分には無かった状況であった。
ピノクルは自分でも驚くほどまっすぐに今はフリーセルを見つめる事ができた。
ピノクルと視線を合わせたフリーセルの青い瞳が一瞬大きく揺らいだ。
「僕と一緒にいたい…そう思ってくれるんだ…君は…」
視線を外してそう呟くフリーセルの肩が細かく震えるのが見えた。
「そう思ってないと思うほうがおかしいと思うけどなあ…」
あえて軽くふざける様にピノクルが呟くとフリーセルが不意にピノクルの襟元をつかみ自身に近づけ
そのまま唇に軽くキスをした。
全くの不意打ちにきょとんとするピノクルが状況を把握した後に赤面するのを満足そうに見つめながらフリーセルは微笑んだ。
「そうだね、ピノクルは僕が大好きなんだ…僕がいなくなったら君はきっと毎日泣いてしまうんだろうね」
そうかもしれない。
フリーセルの挑発めいた言葉に反論するでもなく、ピノクルは微笑みを返した。
そのままフリーセルが呟く。
「追試…絶対落とさないようにしないとね。君が泣くのは面倒だ」
「フリーセル…」
「言ってるそばから何で泣きそうな顔になるのかな君は…」
「絶対いい成績とれるよフリーセルなら!僕も手伝うよ勉強」
「ありがとう…ピノクル」
*****
フリーセルはなぜ学院をやめてもいいと思ったのだろう…
そう思いながら自室へと戻ったピノクルはしかしそれを訊く事はできない自分に至らなさを感じつつ
今はフリーセルの成績のためにできる事に専念した。
追試の範囲は今回のテストと同じであろうから、比較的まとめやすいななどと考えフリーセルの為に
自身のノートを見返す。
自室の落ち着いた静けさの中にいるとフリーセルの笑顔と先ほどのキスが不意に脳裏に蘇る。
フリーセルとは休学中にもそういう関係にはなっていた。
しかし、フリーセルのリングが外れてからは、一度体を重ねただけだ。
お互いの気持ちを理解しあった後、今までの分を取り戻すかのように抱き合った。
それからはピノクル自身が勉強の為に部屋にこもりがちになっていた事もあり、そのような行為は
行っていない。
フリーセルの唇の感覚を体が覚えている。
お互いレプリカリングを付けていた頃はもう何度か分からないほど体を重ねる行為をしていたのだ。
久しぶりのキスに思わず反射的に体が反応したのかもしれない。
ピノクルは自身の中心に欲望があふれるのを感じた。
しかし、今フリーセルにその欲望をぶつけるのはあまりにも先ほどの会話の後では浅ましく思えた。
「フリーセルも勉強に忙しいだろうしね…」
一瞬考えた後、椅子に座ったまま自身の制服のズボンのジッパーを下げ、熱くなりつつある中心を取り出した。
すでに反りはじめたそれをそっと手で包み上下する。
「ん…っ」
自然に脳裏に浮かぶのは行為の最中のフリーセルの表情だった。
「はあ、はあ」
静かな自室内に次第にくちゅくちゅという粘液質交じりの音が響く。
その音に誘われるように次第に上下する手の速度があがる。
「あ、あ、…ッ」
一瞬脳内が真っ白になり白濁の液体があふれる。
「フリーセル…君としたいよお…」
一人呟く声が静かに響いた。